あるマイナー寮生の体験談

10年ほど前、大学院生時代に吉田寮に住んでいたのでその思い出を書きたいと思う。

当時、僕が他の学生に吉田寮に住んでいると言うと、大体「えっ、あの吉田寮!?スゴイね~」という反応が返ってきた。
学内でも吉田寮は魔境扱いなのだ。
そんな所に僕は2年間住んでいた。

寮生は2種類いる。
「目立つ寮生」と「目立たない寮生」だ。
特に目立たない寮生はマイナー寮生と言われ、まさにそれが僕だった。
マイナー寮生は寮の運営にもそれほど積極的に関わらず、他の寮生とも盛んに交流することはないので、顔もあまり知られていない。

しかし、あくまで主観だが、少なくとも当時はマイナー寮生のほうが多かったと思う。吉田寮のイメージとは裏腹に、地味でおとなしい学生は少なくなかった。また、僕がいた頃の吉田寮は3割4割が中国人留学生で、彼らはあまり日本人と交流することはなく、寮の運営には関わらなかった。
だから、当時僕の顔と名前を一致して覚えている寮生はあまりいなかったと思う。
なおのこと10年経った今、僕が吉田寮にいたと記憶している人は殆どいないはずだ。

「人は人、自分は自分」が僕のポリシーだったのだが、今考えれば少し後悔が残る。
僕が一人で何をやっていたかというと、酒飲んでゲームしてたぐらいだ。そんなのポリシーというほどのものではない。
要は僕にはコミュニケーション能力が足りてなかっただけだ。
今も十分とは言えないが、あの頃より改善されているし、今基準で当時の僕を考えると、もっとああしておけば、と思うことがいくらでもある。

目立つ寮生が何で目立つかというと、コミュニケーション能力が高く、多くの人と接することが好きだったからと思う。
きっと、そういう人と僕とでは吉田寮に対する思いも違うはずだ。
ただ、僕は僕で吉田寮は好きだった。
だから、これから京都大学に入学する学生さんにも吉田寮をおすすめしたい。

昔と変わらぬ吉田寮

僕が寮を出る頃、老朽化の激しい寮を改修するのか建て直すのか、激しく議論されていたのだが、議論の結果を知らずに卒業した。あれから10年間、吉田寮には行ってなかったが、先日どうなってるか気になって行ってみたら、時間が止まったように当時のままだった。
建て直しはしてないようだ。

中に入って見たが、これまた全く変化なく、あの独特の臭いまでそのままだった。自分が知っている学生はいないはずだが、受付や大部屋に溜まっている学生の雰囲気も、タイムスリップしたように当時の学生とそっくりだ。

吉田寮は大正2年(1913)建築なので、約100年の歴史があるわけだが、それを考えると10年程度ではあまり大きな変化がないのもうなずける。この先も大地震や火事で全壊しない限り、吉田寮は永遠に不滅だろう。もう関係ないのだが、少し嬉しい。

僕が吉田寮に入寮しようと思った動機は寮費が激安だからだ。
一ヶ月あたり約2500円(寄宿料400円・水光熱費約1600円・自治会費500円)は今も昔も変わらない。こんな激安の住居は日本中探しても稀であろう。

しかし、吉田寮に入寮希望者が殺到しているかというと、そうではない。
見た目は廃墟と紙一重で、中もカオス。
でも、それよりは、部屋が相部屋で水道トイレ・シャワーは共同である点が今の学生には合わないのかもしれない。
僕はそれまで職場の宿舎に相部屋で住んでいたことがあったし、水道トイレシャワーも共同でも問題なかった。

吉田寮に入寮するには面接がある。今の状況とは違うかもしれないが、当時は入寮審査で落とされる人はほとんどいなかった。単に寮を荷物置き場に使いたいとかフザけたことを言わない限り、全員合格だったようだ。
入寮したら、1ヶ月間は大部屋で同期入寮者と一緒に過ごす。プライバシーもないわけだが、これに馴染めないなら吉田寮は無理であろう。
みな、一緒に飯を作って食べたりしていたが、僕はあまり社交的な人間ではないので、一人でマイペースに過ごしていた。馴染むというか、周囲を気にしなかった。

1か月後、個室に配属される。と言っても一人一部屋ではなく、3人で2部屋だった。その2部屋をどう使うかはそれぞれ決めていいのだが、僕のところは一部屋がリビングで、もう一部屋が寝室だった。
しかし、3人が揃うことはあまりなく、僕一人が部屋にいることが多かった。
他の二人は忙しいか、他の仲の良い寮生の所に遊びに行っているかしていた。

…今思えば、年上で非社交的な僕を敬遠したいたのかもしれない。
しかしまあ、僕は静かな寮生活を過ごせて満足していた。

補足だが、僕は学部生の4年間は一般の安アパートに住んでいて、その後2年間ほど就職して働いて、そして大学院に入学した。
大学に入学した19歳の頃も貧乏だったが、吉田寮には入らなかった。一人暮らしに憧れていたので寮は嫌だった。
しかし、4年間一人暮らしをして、もう満足したので、今度は吉田寮を選んだわけだ。

吉田寮は全国でも珍しい(今や唯一?)の自治寮である。それは寮を運営したり、規則を決めたりすることを学生自ら行うことだ。だから、寮生には住むだけじゃなくて寮のために仕事をする義務がある。
いくつかの役職や係があって、どれかに所属して会議をしたり作業をしたりしなくてはならない。
ただ、寮のリーダーなどの忙しい役職以外は、それほどそれに時間を取られるわけではない。僕も激安の寮費の対価としてそれぐらいはやらないといけないなと思ってやっていた。
また、2ヶ月に1回ぐらい、寮の掃除大会があるので、それにもよく参加していた。掃除大会の後に、カレーなどの御飯が出るのだが、それが美味しかった。

吉田寮には変人が多い

変人が多いと言われる京大生のなかでも選りすぐりだと思う。
京大生の変人率は他の学生の3倍ぐらいだと思うが、吉田寮生の変人率は普通の京大生の5倍ぐらいあると思う。

毎晩受付で寝てる人、何年吉田寮にいるかわからない人、いつも学生服を着ている人など、不思議な人が多かった。
彼らに共通するのは、良くも悪くも、はっきりとした自分を持っていることだった。他人からどう思われようと自分のやりたいようにやっていた。見方によってはそれはかっこいいのだが、大抵の人にはやはり変人の一言で片付けられることが多かった。

僕と同部屋だった人は、食器を一切洗わず使い回ししていた。大丈夫なの?と聞いたが、それで腹を壊したことはないとのこと。確かにそれで腹を壊さないなら食器を洗わないことは合理的だ。常識なんて糞食らえという感じが爽快だった。

ただ、変人と言っても犯罪者タイプの人は見かけなかった。うちは部屋に鍵をかけなかったが物を取られたこともなかった。
皆いい人、というわけじゃ決してないが、理屈の通用する人ばかりなので話せばわかるタイプの人が多いように思った。

また、京都大学熊野寮とは違い、吉田寮では表立って政治活動をしている人がいなかった。
寮内には「日帝・米帝打倒!」みたいな張り紙が残っていたりするわけだが、それは何十年も昔の張り紙で、現在は学生運動はほとんどない。
学生運動をやりたい人は熊野寮に行くといいだろう。

僕の吉田寮生活

★8時頃:起床
朝起きて、ネット見ながら朝飯。大体はシリアルを食べていた。
朝が一番寮が静かな時間帯である。
皆朝起きて学校にいくのかというと、そうでもなく、一日中寮にいる人も少なくないようだ。

★9時頃:大学院の研究室に行く
先生からは、君はいかにも吉田寮生だね、と言われていた。
古い言葉だが、僕は典型的なバンカラ学生に見えたらしい。

★12時頃:昼飯
寮に戻って自炊していた。大体はインスタントラーメンだった。僕は貧乏だった。
他の研究室の人は一緒に学食とかに行っていたけど、僕はマイペースだった。

★5時頃:帰宅
スーパーで買物をしてから寮に戻ることが日課。
夕方は受付あたりには寮生が溜まっていて、麻雀やったりゲームやったりしている人が多かった。

★夜:酒・ゲーム
晩飯も自炊。安い肉を焼くか、もやし炒めが多かった。肉を焼いて煙が出てしまうとすぐに火災警報器がなるので気をつけなくてはいけなかった。
その後は酒を飲んでゲームをして寝るのが僕の日課だった。
寮では大部屋などでイベントや飲み会があることも多かった。
今思えば引きこもらず参加しておけば良かった。

僕は、絶対に夜に一度起きて、トイレにいくのだが、トイレが部屋にないことは少々不便に思った。

しかしまあ全般的に、僕は吉田寮でも普通に生活していた。
色々不満もあったのだが、住めば都、そのうち慣れるし気にならなくなってくる。

入寮したものの、吉田寮が馴染めなくて退寮した、という人は記憶に無い。
始めは色々驚くことがあっても、結局は慣れてしまうからだろう。

まとめ

●吉田寮に住むメリット
吉田寮に住むメリットはかなり多い。
★寮費が安すぎる。
★学校から近い。
★家具家電はほとんど買う必要がない。
★イベントが多く退屈しない。
★ユニークな人が多い。
★これ以上ボロい住居はほとんどないので、これ以降どんな住居にも住める。●吉田寮に住むデメリット
メリットと同様にデメリットも多い。
★水道トイレ・シャワーが共同。
★相部屋。
★寮の運営の仕事がある。
★雨漏りする場所がある。
★火事とか地震の時が恐い。
★隙間風が入ってくるので冬が寒い。
★蚊が多い
★防犯上問題がないとはいえない。

●吉田寮を特におすすめする人
★とにかく家賃は安い方がいい人
★社交的な人
★非社交的でも他人が気にならない人
★共同生活に馴染める人

個人的な意見だが、吉田寮はオススメできる。デメリットも多いのだが、若いうちは苦労した方が将来のためだ。
なんだかんだで、吉田寮生も卒業後は一流企業に就職する人が多く、所得は一般の人より多くなるだろう(僕は違うかったが)。
贅沢するなら就職してからにして、学生時代は吉田寮で修行した方がいい。
一人暮らしもいいが、様々な困難や、多くの人にまみれて生活し、生きる力や社会性を養うことも重要だ。

また、吉田寮ではその気になれば多くの個性的な学生と交流できるし、中には自分の運命を変える出会いもあるかも知れない。
寮生の中には単に変な人じゃなくて、多分こいつ将来偉くなるんだろうな、と思ってしまう人が何人かいた。

最後に、何度も言うが、寮費は激安なので、自分でバイトして生活することも可能だ。仕送りしてもらうにせよ、額が少なくて済むので親孝行間違いなしだ。
もうこれは、吉田寮に入寮するしかない!?
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